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役に立つものが嫌い?【森博嗣】連載「道草の道標」第14回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第14回

 

【役に立つのは普通】

 

 もちろん、そうはいっても、役に立つものが大手を振って闊歩しているのが現状。僕の周囲にも、当然いろいろ役に立つものがある。これらを全部を「嫌いだ」と否定しているわけではない。そもそも、好きとか嫌いとかで存在を肯定したり否定したりするようなものではない。必要なものがなくても良ければ、それは不要だったというだけだ。

 それでも、世の中にある必要だといわれているものが、すべて本当に絶対必要なのか、と問うことは大事だと思う。それを忘れ、単に買いたい理由として、必要性を全面に出すことが気に入らない、という感じなのだ。否、人のことはどうでも良くて、僕自身がそういうことをしたくない、というだけの話である。

 そもそも、実用性・必要性があるものは、その機能が当たり前であり、つまり「普通」の状態なのだ。役に立つと威張れるものではなく、「単に必要だから存在しているだけでしょう?」といいたくなる。なにしろ、ないと困るから人はそれを作ったのであり、作りたいから作ったわけではない。欲しいから求めたわけではない。

 では、人間というのは必要だから生まれてきたのか? そんなはずはない。役に立つから子供を作ったわけではない。たとえ必要がなくても、人の命はかけがえのないものであり、大事にされている。そういうものを、美しく、可愛く、格好良い、と感じるのである。

 ある仕事で秀でた才能を発揮した人物は、その才能で社会に認められているけれど、しかし、その人を愛する個人の愛情というものは、その人に才能があってもなくても変わらないはずである。愛情とは、役に立つことを評価しているわけではない。

 これが、僕の理屈である。単なる個人的な、しかも偏屈した人間の考えていることにすぎない。でも、奇を衒っているわけではなく、真剣にそう信じていて、実際にこのポリシィでこれまで生きてきた。自分が役に立たないから、弁護しているのかな?

 ところで、時計とかバッグとかの高価なブランドものを買う人は、その品が役に立つと思っているのだろうか? 少なくとも僕には役に立たないから、僕に見せても効果はない。だが、一般のある程度の割合は、「おお、凄いな」と反応する。それがその品の機能であり、羨ましがらせる役に立つと考えているかもしれない。あるいは、のちのち値上がりすることが機能かもしれない。人には見せないし、将来売ることもない、という条件でもそれを買いたい、という人は、本当にそれが欲しい人だから、もし相談を受けたら、僕は「良いね。買ったら」と答えるだろう。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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